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written by KANA

私が尾道で働く理由     〖AIRSHIP COFFEE〗松本直也


尾道は坂のまちやお寺のまち、猫のまちとして良く知られていますが、今回は〖坂のまち・尾道〗らしさ溢れる、坂の途中に佇む1軒のコーヒースタンドにお邪魔して来ました。尾道駅から国道2号線沿いを東に歩いていくことほんの数分、山側へ目を向けると山麓から中腹にかけて沢山のお寺やお店が立ち並ぶ山手地区があります。ここ山手地区はお寺やお店を縫うように細道や階段が張り巡らされていて、ちょっとした迷路に迷い込んだかのような、そんなノスタルジックな雰囲気を感じられる〖尾道らしさ〗漂うエリアになっています。

この山手地区の細道や階段を進んでいく事約10分、小さな分かれ道に〖自家焙煎〗と書かれた看板を見つけました。この先に本当にお店があるの?というような本格的な細道を進んでいくと、笹林と緑に囲まれたコーヒースタンド〖AIRSHIP COFFEE《エアシップコーヒー》〗へ辿り着きました。




敷地には笹林からの木漏れ日が優しくキラキラと光り、風が吹くと笹の葉の擦れる音が最高のBGMを奏でてくれます。そこへ香ばしいコーヒーの香りが漂う…とんでもない癒しの空間が広がっていました。
ふと周りを見渡してみると所々に船の操縦に使う〖舵輪〗や船の先端を感じる三角の敷地、浮き輪付きの看板など、海や船を連想させる様なアイテムが散りばめられています。なにより〖AIRSHIP COFFEE〗という店名もとても気になります。




そこへ船長の制帽をかぶり出迎えてくれたのは〖AIRSHIP COFFEE〗の店主、松本さん。
ここAIRSHIP COFFEEでは〖ナオ船長〗として親しまれています。
伺いたい事が多すぎて何から質問したらいいか迷いながらも、そのひとつひとつに丁寧に答えてくれたナオ船長。



-Q.船を彷彿とさせる操縦用の舵輪、船長さんの制帽等、色々気になります!その辺りお話伺っても良いですか?-

A.実は元航海士なんです。20代から貨物船で働き国内での貨物船の操縦や、その他船でのあれこれをやりながら過ごしていました。つい去年までここAIRSHIPCOFFEEと同時進行で航海士として働いていたんですよ。

-なるほど!本物の航海士さんだったのですね。ちなみにどの辺りを航海していたんですか?-

北海道から九州まで、日本全国を航海していました。航海士時代は、尾道にも入港していたんですよ。


海へのあこがれ 航海士への道


海の無い埼玉県の町で育ったナオ船長。航海士への夢や海へのあこがれがあったのかと伺ってみました。

-航海士という少し非日常の職場、航海士になりたいという夢はいつ頃から持っていたんですか?-

出身は埼玉県、海の無い町で育ちました。小さいころから自然が好きで、長期休みの際に訪れる富山の親戚の家に遊びに行く事がとても楽しかった思い出があります。そういう感覚もあり、自然や海への憧れがありました。
その気持ちを持ち続けていたので船員になる為の学校へ通い、その後晴れて夢だった航海士となりました。

-実際に航海士となり、夢が一つ叶ったんですね。航海士のお仕事や船での生活はどんな感じでしたか?-

一度船に乗ると2・3カ月くらいかな、船の仕事を続けます。もちろん途中陸でも過ごしますが、基本は数カ月船で働き、1カ月ほど休みがある、という感じです。航海士は船の操縦だけでなく、船の上でのあらゆる事をします。何かが壊れても船の上だと買い物にも行けないので自分達で修理したり、作ったり。そこからDIYや自分で出来る事が増えていったので、今の古民家生活でもその経験が役立ってますよ。


航海士から尾道での生活へ


-ここまでは航海士時代のお話を沢山聞かせて頂いたのですが、今度は尾道との出会いや尾道を知ったきっかけを教えてください。-

尾道を知ったきっかけは学生時代に読んだ一冊の漫画です。〖ぱすてる〗という尾道を舞台にした漫画を読んで、尾道という土地の魅力に引き込まれました。漫画で登場する場所は埼玉で暮らす自分とはかけ離れたものがあり、だけどどこか懐かしさの漂う街並みに自然と引き込まれました。憧れと同時に、漠然といつか訪れてみたい、という思いがありました。



-一冊の漫画が尾道との出会いだったんですね。その後尾道を初めて訪れたのはいつ頃なんですか?-

初めて尾道を訪れたのは19歳でした。尾道駅に降り立った瞬間、その町並み、景色に心奪われました。
海・山・橋・そして商店街、一瞬で沢山の景色が自分の目に映り込み、本当に感動しましたね。
レトロな雰囲気と町の佇まいは漫画に描かれていた風景そのもので、そこに自分が降り立ったことがもの凄く嬉しかったですし、実際に旅してみて尾道という町自体に心掴まれちゃいましたね。

-尾道で日々暮らしていると、この景色を当たり前、とついつい思いがちなんですが、ナオ船長のように特別な景色、と感じてくださる事がとても嬉しいです!-

すごく特別だと思いますよ!
海が広がる、山に囲まれる、大きな商店街が続いている。そういう景色はあっても、自分の目に映る中にその全てが凝縮されているってなかなかない光景。箱庭感というのかな、そういう町のつくりも含め、やはり尾道には人を引き付ける力があると思います。

-ナオ船長の尾道愛、凄く伝わってきます。その後も尾道へ度々訪れたんですか?-

はい。その後も休みの日や航海士という仕事柄、尾道に入港することもあり何度も尾道に来てました。当時は漫画から知った尾道の街並みを聖地巡礼したり、千光寺や山手あたりを散策するのが尾道での楽しみでした。少なくとも年に1度は訪れてましたよ。そうしている内に行きつけの喫茶店が出来たり、知り合いも少しずつ増えたり‥。そうなると益々尾道へ来る楽しみも増えていくんですよね。こうして尾道は僕の中で第二の故郷の様な位置づけになっていきました。





訪れる場所から暮らす場所へ―新たな尾道での日々


航海士という仕事をしながら気の向くまま大好きな尾道を訪れていたナオ船長。
そんなナオ船長が尾道を拠点とし生活を始めるきっかけの一つがコーヒーとの出会いでした。

-まずはコーヒースタンドを始めるきっかけとなった、コーヒーとの出会いを教えてください。-

コーヒーとの出会い…。そうですね、話は航海士時代に遡ります。航海士時代、夜に4時間ほどの見張りの時間という業務がありました。それを航海士の間では〖ワッチ〗というんですが、夜間という事もあり、とにかく眠気覚ましになるものをという事でコーヒーを飲み始めたのがきっかけでした。ワッチの間に何杯か飲むコーヒーが段々日常となり、せっかく飲むならと、今度はコーヒーの質を自分なりに上げてみたんです。そうするとそのワッチの時間がとても幸せな時間になったんですよね。そうしていく内にさらに美味しいコーヒーを、と独学で研究するようになりました。コーヒーを淹れ、仲間や先輩達と一緒に飲んだりすると、自然と心地良い空気が生まれるんです。そうやって生活の一部だったコーヒーが特別なものになり始めたのはこの頃でした。

-眠気覚ましのコーヒーがきっかけで一つのお店が誕生するなんて、なんだかすごい話ですね。-

コーヒーはひとつのきっかけに過ぎないんです。航海士をしながらいつか大好きな尾道や自分の興味のある国を拠点に生活出来たらな、という夢は漠然と頭の中にありました。何度も訪れていた尾道を〖自分の生活の拠点にしよう〗と少しずつ考え始めてから、じゃあ尾道でどんな暮らしをしたいのか、自分のやりたい事は何なのか…いろんな思いを描き進めていくうちにこのAIRSHIP COFFEEに辿り着いたという感じですかね。




-尾道を生活の拠点の一つに。それが具体的になっていったのはいつ頃なのでしょうか?-

何度も尾道を訪れるうちに、沢山の人たちと出会いました。それと同時にこの山手の辺りに古民家や空き家が多くあることを知り、地元の方達から色々な情報も頂きました。少しずつ空き家を見たりしながら自然と拠点探しが始まったという感じです。空き家はトータルすると30件近く、結構まわったんですよ。そして今AIRSHIP COFFEEがあるこの場所と出会いました。

-30件近くも!すごいパワーですね。この場所にした決め手はあるんですか?-

やっぱり僕はこの山手の雰囲気やここからの景色が好きなんだと思います。横にある竹林からちょうど陽がこぼれるこの感じも気に入ってます。そしてこの土地の形がちょうど三角になっていて、船の先端みたいでしょう。
さらに2階からは海が眺められるんです。自分が乗船していた船を眺められる場所に住みたいという夢もあったので、海を眺められるのも選択肢のひとつでした。この場所でまずは1年、四季を通して暮らしてみて、本格的な事はそこから考えていこうかなと。

-空き家を実際暮らせるように再生するのは大変だったのでは?-

もともと空き家だった古民家を暮らせるようにするまでは数カ月かかりましたね。店舗もその横の自宅兼シェアハウスもどちらも空き家物件だったので、外の清掃から空き家の清掃、店舗作りのDIYまで…。やる事は山の様にありましたが、コロナの影響もあり空き家再生に集中してとりかかれた事も良かったと思います。最初はどこから手をつけようかな?というスタートでしたよ。沢山の人達の手を借りながらここまで来たという感じです。



尾道の古民家暮らしとAIRSHIP COFFEEの在り方


ついに尾道での拠点を探し出し、古民家再生に動きだしたナオ船長。尾道での暮らしやAIRSHIP COFFEEでの日々が始まります。

-尾道で実際に暮らし始めた感想を聞かせてください。-

始めはずっと憧れていた漫画の中の世界で暮らしているような感覚で、とても感動したのを覚えています。『この坂道は○○巻のあのシーンに出てきた場所だ!』といった感じで、山手を散歩するだけでテンションが上がっていました。笑

-坂や階段も多いこの山手地区ですが、生活する上で大変な事もあるんじゃないですか?-

大変な事もあるとは思いますが、なるようになる、という感じで結構楽しみながら生活している部分が大きいですね。古民家なので、夏はとっても涼しく冬は…かなり寒いです。笑
だけど焚火で焼き芋してみたり、楽しい部分もあって。虫も出るので寝る時は蚊帳に入って寝てるんですが、何かトトロに出てくる光景みたいでしょ、それもまた楽しかったり。横が竹林なので敷地のそこら中から筍が生えてくる事もあります。そんな時は天ぷらにして食べちゃいます。笑
大きなものを運んだりする際は大変な事もありますが、そういう一つ一つもこの山手地区ならではの醍醐味じゃないかなと思っています。移住の面に関しても、尾道は移住者の多い町なので受け入れてくれる人たちが多くて町に溶け込みやすい。そこも尾道での暮らしやすさに繋がっていますね。

-なんだか大変な事さえも楽しんでいますよね!ナオ船長の《どんな事もとにかく楽しみたい》という人となりを感じます!その後AIRSHIPCOFFEEはいつ頃OPENしたんですか?-

尾道に移住してからちょうど2年経った頃だから…2021年の9月ですね。

-ではこの秋でオープンから2年になるんですね!観光の方だけじゃなく地域の方たちもよく来られるんですか?-

観光の方だけでなく、地域の方も来てくださってます。当店はペットOKのテラス席なので、犬の散歩がてら来てくださる方もいます。いろんな方々とお話できたりその時々で交流が生まれるのがとても楽しいですよ。

-ナオ船長が思うARISHIPCOFFEEの在り方のようなものがあれば是非教えてください。-

尾道が好きで、コーヒーが好きで、色んな出会いがありこのAIRSHIPCOFFEEという場所がうまれましたが、ここまでくる根底には人と話す場所、人が集まる場所を作りたい、という思いが常にあったからだと思っています。
自分自身ももちろんですし、来て頂いたお客様や地域の方々の交流の場にもなって欲しい。コーヒースタンドという形にしたのもそれぞれが気軽に声を掛け合える、という空間作りの一環です。
日々の仕事や生活に追われ、少しずつ心が消耗していってその気持ちが溢れそうになると、休息や癒しの時間を作る事でリフレッシュしてライフワークバランスを保つ。そうやって過ごしている人たちは沢山いるんじゃないかなと思います。尾道の景色や町並み、町の人達の温もりにはそんな日々をリフレッシュさせてくれる力や、自分自身とゆっくり向き合える時間が流れているとすごく感じます。尾道に訪れ、過ごしてみて僕自身が実際に感じたことでもあるから。
そういう思いで尾道に癒されに来た人々の心を休める空間に、この場所がなってくれたらいいなと思っているんです。




-大好きな尾道をただ満喫するのではなく、尾道に癒されに来た人々が集まる空間を今度はナオ船長が提供する側になったのですね。お話を聞き進めていったからこそ尾道×コーヒーのコラボレーションにナオ船長らしさを感じます。-

コーヒーのもつ力って凄いなと僕は思っています。
香りや味わいはもちろんですが、たっぷり時間をかけてコーヒーを淹れる、それだけで心が満たされるんです。その時間と香りを使って瞑想しているような、そんな贅沢な時間が流れるのもコーヒーの魅力かなと。コーヒー1杯にゆっくり向き合う事で日常を大切にしている、と改めて感じられるし、味、香り、時間の使い方や心の浄化。
コーヒーは五感で楽しめるものだと思うんです。
そして、坂の途中、細道の先にあるコーヒースタンド、こんな空間づくりは尾道でないと中々出来ないんじゃないかと思います。山の港のような尾道のこの場所で、非日常を感じてもらいながら幸せなひとときを過ごして貰えたら嬉しいです。


美味しいコーヒーと共に、ここでしか味わえない空間が広がるAIRSHIPCOFFEE。あこがれの地での生活を心から楽しむナオ船長に改めて尾道の魅力やパワーを教えてもらった1日となりました。


松本 直也
・好きな食べ物 中華料理全般|特にギョーザ
・趣味 サウナ(週4〜5で行ってます)
・いつか行ってみたい場所 中南米のコーヒー農園
・行ってみて良かった場所 ジョージア
・子供の頃の夢 大工
・ついついやってしまうクセは? ついつい珈琲の話になると熱く語ってしまう

AIRSHIPCOFFEE-エアシップコーヒー-

広島県尾道市東土堂町2-12

OPEN 10:00-16:00

定休日 火・水・金曜日〖雨天欠航〗

駐車場 無し




このブログを書いた人

カナ

尾道生まれ・ほぼ尾道育ち。

尾道・千光寺山のロープウェイガールやツアー関係の仕事に就きながら20代を過ごす。その後2人の女の子を育てながら人と関わる仕事に就き、現在は〖尾道スーベニア〗の運営に携わる。

尾道で働く人々にフォーカスした取材ブログ〖私が尾道で働く理由〗担当。

空想の世界が大好きで頭の中で色んなことを考えるのが日課。食べることと、小説を読むこと、人間観察も大好き。







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